Sakata Mori Asatani Nishimoto Lab
坂田・森・浅谷・西本研究室

ICSSI2025 コペンハーゲン会議報告
ICSSI2025がコペンハーゲンで開催されました。本会議はScience of Science分野におけるトップ会議として位置づけられており、坂田・森・浅谷・西本研究室からは5名が参加し、関係者との活発な交流と議論を行いました。
・坂田研究室からの発表
パラレルセッション
1. Defending the Fundamentals: Measuring and Interpreting the Impact of Basic Researchers on Scientific Publications : Rikuei Kaku, Mikako Bito, Keita Nishimoto, Ichiro Sakata, Kimitaka Asatani
ポスターセッション
1. Basic-to-Applied Transitions Boost Scientific Impact : Noriyuki Higashide, Keita Nishimoto, Kimitaka Asatani, Ichiro Sakata
2. Do Researchers Benefit Career-wise from Involvement in International Policy Guideline Development? : Yuta Tomokiyo, Keita Nishimoto, Kimitaka Asatani, Ichiro Sakata
3. Quantifying Diffusion of Emerging Academic Norms : Chiaki Miura, Ichiro Sakata
・会議の雰囲気と開催地
会場は200年前の歴史ある建物を改装したもので、バンケットは中心部にある宮殿で開催されました。コペンハーゲンは「北欧のパリ」とも呼ばれる美しい都市で、交通機関やデジタル化が発達しており、人々は洗練されていて非常に心地よい街でした。このような先進的な社会システムについて地元の参加者に質問したところ、政府への信頼が社会の基盤にあるとのことでした。
異分野融合の学会に多いそうですが、雰囲気はとてもオープンでフレンドリーです。初めて会った人とも気軽に話し合い打ち解けることができます。参加者はヨーロッパからが多く、コペンハーゲンは本会議のスポンサーであるNovo Nordisk財団の本拠地でもあり、Impact Managementの担当者も出席していました。UK Metascience Unitなど政府機関の関係者も参加していました。
閉会挨拶で述べられていたように、このコミュニティは知識を生産(Produce)する人だけでなく、それを利用(Consume)する人々も含まれることが特徴的です。学術的な興味と社会での有用性の双方の観点から発展していくことが期待されます。
来年はワシントンのNational Academy of Sciencesで開催予定です。米国においてはこの数ヶ月で政権から科学技術への風当たりが強くなっていることもあり、「来年また(ワシントンが存在していたら)会おう」という少々笑えない冗談を交わして解散となりました。
・テーマ別の議論
今回の会議では、以下の7つの大きなテーマが扱われました:
Inequalities, Careers, Science Funding, AI & Science, Innovation, Collaborations & Interdisciplinarity, Knowledge Diffusion
このうち、Inequalities、Science Funding、AI & Scienceが今回の内容として特に大きな比重を占めていました。
Inequalities(不平等)
ジェンダー間の業績差、育児期間中の女性研究者の業績低下傾向などが議論されました。1920-1960年代に米国大学で女性ファカルティの比率が下がったことを報告する研究が賞を受賞しました[1]。また、LLMが提案する研究者がビッグネームに偏っていることを示した研究も発表されていました[2]。
Science Funding(研究資金)
この分野のビッグクエスチョンは「何がfundingの正解なのか」であり、基本的に誰にも明確な答えがないという状況です。現状では有名研究者に資金が割り当てられがちで、これはMatthew効果を促進し、保守主義(Conservatism)と言われています。申請書の新規性(Novelty)を測定してこれに基づいて決定することで、この保守主義を減らせるという研究が発表されていました[3]。
また、Distributed Peer Review(DPR, 申請者同士が審査し合う方法)の採用についてFunder等の間でパネルディスカッションが行われ、DPRによって審査員の手間は省けて、審査結果もそれほど変わらないという結果が報告されました。
AI & Science(AIと科学)
AIをどのように活用するか、何が良くて何が問題かという議論が活発に行われました。東京を拠点とするSakana AIのRobert Tjarko Lange氏も登壇していました。総じて、コーディングなどのワークフロー自動化は非常に有効で科学研究を推進する一方、厳密な数学の問題や生命に関わる医療系の難しい判断、倫理が絡む問題をAIが自動で決定することには慎重な姿勢が示されました。
パラレルセッションでは、AIが論文でどのように使われているかに注目が集まり、LLMを使い始めると生産性は上がるがインパクトは下がるという興味深い結果が報告されていました[4]。使用開始前後のキャリアパフォーマンスへの影響を調査した研究は特に注目に値するものでした。
・Science of Scienceの今後の展望
Nature誌, Science誌のEditorらで行ったパネル討論では、現在のScience of Science分野は、データが利用可能な問いにフォーカスしている傾向がある一方、本当に答えを出す価値のある問いに取り組むべきだという議論もありました。例えば、「R&Dの投資収益率(ROI)とは何か」というのは非常に良い問いですが、本当に厳密に取り組もうとすると極めて困難な課題でもあります。
・まとめ
ICSSI2025は、Science of Science分野の最新動向を把握し、国際的な研究者ネットワークを構築する貴重な機会となりました。特に、AI技術の科学研究への影響、研究資金配分の公平性、科学界における不平等の問題など、現代の科学政策にとって重要な課題について深い議論が行われました。 私たちの発表は関心を集め、多くの質疑が向けられました。James Evnas教授やDashun Wang教授などトップ研究者との議論は、各テーマの今後の展開に向けて非常に有意義なものとなりました。
坂田・森・浅谷・西本研究室は書籍「サイエンス・オブ・サイエンス」の和訳を監修しているほか、Science of Science研究会の運営を担っております。こうした活動を通し、国内における本分野の発展に貢献して参ります。今後の活動と研究成果にどうぞ注目ください。
(文責:東出紀之)




